日本には各地に焼き物の産地があります。
その中でも「日本六古窯(にほんろっこよう)」と呼ばれる六つの窯は、中世から現在まで続く代表的な産地として知られています。
この記事では、日本六古窯の成り立ちや歴史、各産地の特徴についてわかりやすく解説します。
日本六古窯とは
六古窯とは、愛知の瀬戸・常滑、福井の越前、滋賀の信楽、兵庫の丹波立杭、岡山の備前の6つの窯場を指します。この呼び名は、古陶磁研究家・小山冨士夫氏が1948年頃に提唱したものです。
2017年には「きっと恋する六古窯―日本生まれ日本育ちのやきもの産地―」というストーリーで、日本遺産に認定されました。
きっと恋する六古窯 – 日本遺産
ここで注意が必要なのは、「日本遺産」は文化庁が2015年に創設した比較的新しい制度であり、文化財そのものを指定するものではないという点です。六古窯の場合は、窯跡や作品単体が文化財として指定されたわけではなく、地域に根ざした焼き物文化の歴史的ストーリー全体が評価されています。
この認定をきっかけに「六古窯日本遺産活用協議会」が発足し、2018年には公式Webサイトが公開、さらに2025年の大阪万博へも参加するなど、六古窯は現代においても注目を集めています。
旅する、千年、六古窯 – 日本六古窯 公式Webサイト
「常滑焼れんが」が大阪万博彩る ネットで制作風景の動画公開 – 中日新聞
各地の焼き物の産地は昔からあったが、日本六古窯という呼び方は1948年から。
プッシュされ始めたのも割と最近。
各窯の特徴
六古窯はそれぞれに歴史や特色がありますが、現在は多くの技術や表現が融合しており、「〇〇焼き」とひとことで括れない作品も少なくありません。それでも備前焼のように一目でわかる特徴を持つ産地もあれば、常滑焼や信楽焼のように特定のイメージが強い産地もあります。
焼き物を見ただけで「これはどこの産地か」と判別するのは難しいことも多いですが、代表的な特徴を知っておくと理解が深まります。以下では各窯の概要を紹介します。
瀬戸焼(愛知)

約1,000年前から続く世界的にも稀有な産地。鎌倉時代にはいち早く釉薬を用い始め、品質の高さから「せともの」が優れた食器の代名詞となりました。
19世紀以降は磁器の生産や海外輸出、万国博覧会への出品を通じて西洋の技術を積極的に導入。現在では食器にとどまらず、ノベルティや陶歯、自動車部品、ファインセラミックなど多様な製品を生み出しています。
伝統を守りながらも新しい技術や文化を柔軟に取り入れてきた、発展性の高い産地です。
常滑焼(愛知)

日本最大規模の古窯跡を持つ産地で、平安時代末期から焼き物の生産が続いています。大甕や壺の生産で発展し、江戸時代以降は急須の名産地として知られるようになりました。特に赤土を用いた「朱泥急須」は、茶の味わいを引き立てるとされ、高い評価を受けています。
さらに常滑焼は「招き猫」の産地としても有名で、全国シェアの約8割を占めるといわれています。商売繁盛の縁起物として、大小さまざまな常滑焼の招き猫が各地に出荷されてきました。
近代以降は土管やタイルなど生活インフラにも活躍し、現在では食器や花器、建材など幅広い製品を生産。伝統的な急須から現代的なデザインの器まで、多様な展開を見せる産地です。
越前焼(福井)
約850年前に始まったとされる産地で、六古窯の中でも歴史が古い部類に入ります。もともとは無釉の壺や甕を中心に生産し、素朴で力強い焼き締めが特徴です。耐久性に優れていたため、生活の実用品として広く用いられました。
現代では、伝統を受け継ぎつつ新しい釉薬やデザインを取り入れ、シンプルでモダンな食器が多く作られています。日常使いしやすい器として評価され、地元では陶芸体験や窯元巡りも盛んに行われています。
信楽焼(滋賀)

鎌倉時代中期に始まったとされる産地で、大物陶器の生産で発展しました。粗く大きな粒子を含む土を用いるため、素朴で温かみのある風合いが特徴です。焼成の過程で灰が溶けて自然釉となり、独特の景色を生み出します。
江戸時代以降は茶陶としても評価され、近代になると狸の置物が全国的に知られるようになりました。現代では植木鉢や建材、日常食器など幅広い製品が作られており、インテリアとしても人気の高い産地です。
丹波焼・丹波立杭焼(兵庫)

平安時代末期から続くとされる伝統ある産地で、六古窯の中でも代表的な古窯のひとつです。素朴で力強い焼き締めが特徴で、焼成中に薪の灰が器に降りかかり、自然釉や「灰被り」と呼ばれる独特の景色を生み出します。
江戸時代以降は甕や壺、日用品を中心に発展し、現在はシンプルで使いやすい器から作家物の作品まで幅広く生産されています。民藝運動の中でも再評価され、現代の食卓にも合う素朴で味わい深い器として人気があります。
備前焼(岡山)

平安時代末期から鎌倉時代にかけて成立した産地で、釉薬を使わず焼き締めによって仕上げるのが最大の特徴です。焼成中に生まれる「胡麻」「桟切」「火襷」など多彩な窯変の景色が評価され、世界的にも独自性の高い焼き物とされています。
茶陶や酒器としての評価が特に高く、素朴でありながら力強い存在感を持ちます。現代では伝統技法を継承する一方で、若手作家が新しい造形に挑戦しており、伝統と革新が共存する産地として注目を集めています。
現代の六古窯
六古窯は伝統的な技術を守り続ける一方で、現代のライフスタイルに合わせた新しい器づくりにも取り組んでいます。必ずしも「古風な焼き物」だけではなく、モダンなデザインの食器やインテリア向け作品も数多く生み出されています。
現在の人気産地といえば波佐見焼や益子焼、九谷焼や有田焼などがよく名前に挙がりますが、六古窯は「歴史的に日本を代表する産地」であることに意義があります。いずれの地域も今もなお陶芸の地として活気があり、観光や陶芸体験、窯跡めぐりを楽しめるのも魅力です。若手作家が国内外で活躍している点でも、六古窯は「伝統と革新」を兼ね備えた産地として進化を続けています。
まとめ
日本六古窯は、日本の陶磁器文化を支えてきた基盤的な窯場です。呼び名としての「六古窯」は1948年に生まれ、2017年には「きっと恋する六古窯―日本生まれ日本育ちのやきもの産地―」というストーリーで日本遺産に認定されました。窯そのものの歴史に比べれば新しい呼称ですが、六古窯の価値を広く伝える大きな契機となっています。
参考:
旅する、千年、六古窯 – 日本六古窯 公式Webサイト [日本遺産] https://sixancientkilns.jp/