天然塩は身体にやさしいのか
塩は、料理に欠かせない調味料のひとつ。
でもスーパーに行くと、「天然塩」「精製塩」「岩塩」「焼き塩」など、似たようで違う塩がずらりと並んでいて、どれを選べばいいのか迷ってしまったことはありませんか?
特に「天然塩は身体にやさしい」「精製塩は添加物で不健康」「科学的に作られた塩でなく自然のものを」なんて事を聞いた事ある人も多いかもしれません。
実際のところ、それは本当なのでしょうか?

この記事では、「天然塩と精製塩の違い」について解説していきます。
「天然塩」の種類と製法
ひとくちに「塩」と言っても、そのルーツはさまざま。大きく分けると、海塩・湖塩・岩塩の3つに分類されます。
- 海塩
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ご存じ海の塩。海水を蒸発させて塩を取り出します。天日で乾かす「天日塩」、火で煮詰める「釜焚き塩」があります。
- 湖塩
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「塩湖」から採れる塩で、塩の結晶が湖の水面や地表に自然に現れるという特殊な環境でできたものです。
死海やカスピ海、ソルトレイクシティーのグレートソルト湖が有名。 - 岩塩
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太古の海が地殻変動で閉じ込められ、数百万年かけてできた塩のかたまりを採掘したもの。
ヒマラヤ岩塩、アンデスの岩塩などが有名で、ピンク・黒など色付きな塩もあります。
上記3つで言うと、海塩3割、湖塩1割、岩塩6割と世界的には岩塩が多いようです。
国産の塩は海塩
日本では湖塩、岩塩は採れません。なので国産塩は海塩になります。
また、湿度が多いので天日で乾かし切る「天日塩」は少なく、基本的に「釜焚き塩」になります。
精製塩の原料は
精製塩の原料は輸入した「原塩」です。原塩は主に海水を天日で乾かした「天日塩」になります。
精製塩の原料も天然塩なんです。ではなぜ精製するのでしょうか?


原塩は海外から輸入します。こちらは塩を集めている写真です。見てわかるように大規模に天日塩を作っています。
…さて、この野晒し&トラクターで乱暴に集められた塩をそのまま食べようと思いますか? ゴミや小石など入っていた場合、塩の粒から取り除けるでしょうか? NaCl以外の有害な物質が入っていたらどうしましょう?
流石に現地である程度洗浄はされますが、それでも国内では食用として販売はできません。
そんなわけで輸入した原塩は国内の工場で一度溶かし、濾過やイオン交換膜を使い、純粋な塩(NaCl)だけを取り出して精製塩を安全に大量生産しているわけです。
精製塩は化学合成した塩ではなく海の塩
そもそも人工の塩は流通していません
なぜわざわざ輸入するの?
日本の周囲は海です。原料には困らないはずです。
問題は燃料です。塩分濃度は3%なので97%の水分は要りません(雑な計算ですが)
ほぼ蒸発させる必要があり、高額の燃料費がかかります。ある程度まで天日で蒸発させるにも、湿度の高い日本では大規模に天日干しできる環境がありません。
こういった事情があり、安く生産するために原塩を大量生産できる海外に依存しているわけです。
調べると東京23区とほぼ同じ大きさの塩田(メキシコ:ゲレロネグロ塩田)に海水を入れて2年かけて蒸発させるとか…規模が違いすぎて、これは輸入したほうがお得だと思いました。「食卓塩」「博多の塩」「シママース」などの原料にもなっています。
岩塩や湖塩は精製塩にならないの?
日本では海塩が多いですが、岩塩や湖塩も精製塩になります。一度溶かしてから汚れを除き、塩を作ります。またオランダなどでは「地下かん水」という塩水を汲み上げて作る場合もあります。
参考:https://www.shio-ya.com/general_salt/rocksalt.html
精製塩は海水を電気分解して作られるから危険?
海水を電気分解して得られるのは水素と塩素と水酸化ナトリウムです。
2NaCl + 2H2O → 2NaOH + Cl2 + H2
「イオン交換膜に電流を流し、塩分濃度を高める」という説明文を読み間違えたのでしょう。あと学生時代の知識と混ざったんですかね? あくまで濃い海水を作るための装置であって、最終的には熱で乾燥です。
味・食感の違い
味の違いについては賛否の分かれるところです。
「精製塩はただしょっぱい」「天然塩は旨みがある」なんてことも俗に言われます。
2009年、英国の科学雑誌「Nature」
一般的に使われている塩の化学組成は同じであり、味に違いはないと結論
2013年、アメリカの科学雑誌「PLoS One」
異なる種類の塩の味は、ほとんどの人が区別できないと結論
成分的に本当に微量の差なのでこう言われることもわかります。
まあイギリスとアメリカが言う味の違いなので…ね。
各種食塩の調理に及ぼす影響 / 松本 仲子 三好 恵子 杉田 光代
旨味を加えた場合の鹸味強度の比較は第3表 に示すように,いずれの塩の間にも有意な差は認められなかった
塩単体では味の違いはあったが、旨みを加えた場合はどの塩も一緒だった、という結果です。
とは言え、実験に使っているのが「食塩」「精製塩」「並塩」「漬物塩」「赤穂の天塩」というなんか大差ない塩なのは気になります。
栄養士のやる調理実験は技術とか知識不足なんだよな…プロの料理人呼んで…
一方で、個人的に塩の専門店でいろんな種類の塩を舐める機会があったのですが、確かに味の違いはありました。
とはいえほとんどが同じ味です。たまに「あ、違う」という塩がある、というレベルでした。
様々な研究がありますが、事実としてよく言われていることをまとめます。
・塩の味の違いはあるが、比べてやっとわかる程度
・旨み成分含む液体に溶かしてしまうと味の判別はほぼ不可能
・塩の粒の形や大きさによっても塩味の感じ方が変わる
いろいろ言いましたが、塩の専門店に行って食べ比べるのが一番確実です。
違いなんてないだろ!、と思っている人は意外と違いがあることに
塩の味の違いがわからんのか!、と思っている人は意外と大差ないことに気がつくと思います。
健康への影響について
精製塩は買ってはいけない
精製塩は過剰摂取になりやすい
精製塩はミネラルバランスが崩れた塩
精製塩は何かと悪者にされがちです。そして「天然塩ならいくら摂っても大丈夫」なんて過激派もいるくらいです。
天然塩には十分なミネラルが含まれているのでしょうか。100gあたりの成分を見てみましょう。
精製塩
食塩相当量99.5g
マグネシウム85mg
カルシウム0.77mg
カリウム 測定下限未満
某国産海塩(天日、平釜)
食塩相当量86.36g
マグネシウム700mg
カルシウム400mg
カリウム240mg
ヒマラヤ岩塩(ピンクソルト)
食塩相当量 96.4g
マグネシウム 249.969mg
カルシウム 311.117mg
カリウム 351.559mg
公益財団法人塩事業センター – 精製塩1kg
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7603209
An Analysis of the Mineral Composition of Pink Salt Available in Australia
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7603209
Chef’s choice – Himalayan Pink Fine Salt
某国産海塩は体に良い塩ランキング1位のものをピックアップしています。製法も昔ながらのものです。
まず食塩相当量をみてみましょう。国産の塩は100gあたり食塩相当量が86.36gです。
ぱっと見、「なら食塩以外のミネラルが豊富なんだな」と勘違いする人も多いかもしれません。
しかし不思議です。食塩以外のミネラルを足しても100gにはなりません。残りの成分はなんでしょう?
答えは「水」です。ちょっとしっとりした塩、というだけでした。
ミネラルをみていきましょう。天然塩で特に多い、マグネシウム、カルシウム、カリウムをピックアップしてみました。精製塩は顕著に低いことがわかります。天然塩はミネラル含まれているように思いますがどうでしょうか。
1日摂取する量:
マグネシウムの推奨量は男性で340~370mg、女性で270~290mg
カルシウムの推奨量は700~800mg、女性で600~650mg
カリウムの目安量は男性で2,500mg、女性で目標量2000mg
1日の塩分の目標量は成人男性で7.5g未満、成人女性は6.5g未満です。実際は10gほど摂取しているようですが。
摂取する塩分をすべて「塩」からと言うわけにはいきません。醤油や味噌、ドレッシングなどにも塩分は含まれています。
わたしたちは一日に約10gの塩を摂っていますが、そのうち、料理や食卓で使う塩から摂っている量は1g程度です。
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/number/food.html
こちらを参考に食塩相当量が1gになるよう計算して比較してみました。
某国産海塩
マグネシウム: 約 8.11 mg 1日必要な量の 2.28~2.90%
カルシウム: 約 4.63 mg 1日必要な量の 0.62~0.74%
カリウム: 約 2.78 mg 1日必要な量の 0.11~0.14%
ヒマラヤ岩塩
マグネシウム: 約 2.59 mg 1日必要な量の 0.73~0.93%
カルシウム: 約 3.23 mg 1日必要な量の 0.43~0.52%
カリウム: 約 3.65 mg 1日必要な量の 0.15~0.18%
このように1日に必要な栄養にほとんど影響しません。比較的高い国産海塩のマグネシウムでさえ2~3%です。
ちなみにアーモンドにすると2〜3粒で摂れます。
ミネラル摂取目的での天然塩はほぼ意味がない
“天然塩”と呼ばれるその塩、実は中身は…?
再生加工塩というものがあります。上記で解説した「原塩」を日本の海で溶かして、そこから作る塩になります。
「原塩」を使用しているので、煮詰める手間が少なく低コストで製造することができ、海水を加えているのでミネラル分も多少なり加えられるという、割と良いことずくめな製法だと思います。
とはいえ、有名なのが「博多の塩」や「沖縄の塩 シママース」という土地の名前が入った塩。
輸入したメキシコの原塩を瀬戸内海や沖縄の海水で溶かして作られているので、ほぼ「メキシコの塩」です。
そういった事例もあるので、詐欺のような印象をもたれがちです。
天然塩のようなパッケージで、成分を見てみたら再生加工塩という場合も少なくないです。
また、国産の塩でも1から海水を煮詰めることをせず、イオン交換膜を使い濃縮(イオンかん水)してから製造してところがほとんどです。国内製造だからと言って「天然塩」だとは限りません。
ただ、これらの製法を悪だというつもりもまったくありません。
これらの企業努力あって気軽に塩を使うことができるのです。
参考価格:
精製塩1kg 200円、博多の塩1kg 400円、某国産海塩1kg 2,300円
毎日使うものだからこだわるのか、たいした違いがないから安くて良いのか。それは使用者の判断です。
ただここまでの解説から分かるように、栄養素や調理に使うメリットは薄いです。
ちなみに私は基本的に精製塩を使ってます。サラサラで食材に振りかけやすいから、というのが理由です。
それとは別にステーキ用にカマルグのフルールドセルやフレークの燻製塩もあります。
そもそも天然塩・自然塩と名乗ってはいけない
散々語っておいて今更かい、と思われますがそうなのです。
2002年に塩の製造・販売・輸入が原則自由化されましたが、表示についてのルールがなかったため、誇大広告ばかりの無法地帯になりました。
2008年、食用塩公正取引協議会が発足し、「食用塩公正競争規約」が発効されました。商品の信頼性向上のため、不正競争防止法・農水省加工食品品質表示基準・食品衛生法などの国の基準を満たし、製法・原料原産地を表示するなどして、公正取引委員会の承認を受けたのです。
https://www.shionavi.com/salt/display-rules
要は塩販売のルールができたのです。そこには
「自然」「天然」の表示は使用しないこと
ミネラルによる品質等の優良性を表示しないこと
「最高」「究極」などの最上級を示す表示は客観的根拠がなければ使用しないこと
無意味な無添加表示はしないこと
一括表記枠外に原材料、製法を表記すること
などがあります。
そういった理由から「ミネラル豊富」「自然塩」「天然塩」といった表現は禁止されています。
そもそも自然塩や天然塩という言葉は、塩業界が宣伝用につくったものです。
踊らされていた方は数多くいるのではないでしょうか。
国(日本専売公社)は当時全国に26あった塩田を全部廃止し、塩田にかわってイオン膜濃縮法による海水濃縮装置の製塩会社を全国で7ヶ所に集約する第4次塩業整備を行いました。
https://www.naikai.co.jp/about/history.html
イオン膜濃縮法という画期的な技術が発見されたので、1971年に塩田を全部廃止し工場で作ることになりました。
当時は工場で作られた塩を「化学塩」と呼んでいたりしたそうです。そこから「天然塩」「自然塩」という言葉が出回ったようですね。
審査に合格した塩には、公正と記された「しお公正マーク」がつけられています。
このマークがついた商品は、必ず原産地や製法などを表示することが義務付けられています。


買う際の目安にしてみてはいかがでしょうか。
完全無添加
基本的に塩に保存料などの添加物はいりません。そもそも「無添加」などと表示してはいけないのですが、調べる中であちこちにみうけられたので紹介。
例外として、有名な「食卓塩」はサラサラを保つために炭酸マグネシウムが添加されています。「アルペンザルツ」もサラサラ目的で炭酸カルシウムが、高血圧の人向けの「やさしお」には塩化カリウムが入っています。
精製塩には添加物が入ってる!と思うでしょうが、天然塩にはマグネシウム、カリウム、カルシウムなどが豊富です。それがウリです。
精製しすぎた成分を戻しただけ、と言う方が合っているかと思います。
添加物を気にして、買った天然塩の方がその成分が多いのです。
まとめ:結局、塩はどう選べば良いの?
「精製塩=体に悪い」といったイメージ、少しは払拭できたでしょうか?
天然塩にはたしかにミネラルが含まれていますが、その摂取量はごくわずか。健康への影響はほとんどないというのが実際のところです。
とはいえ、粒の大きさや風味、食感に違いがあるのもまた事実。
だからこそ、用途に応じて使い分けること、パッケージや印象に惑わされないことが大切です。
「精製塩は悪、天然塩は善」なんて単純な話ではありません。
むしろ、そうしたイメージこそが宣伝によって作られたものです。
- 塩の原料は、どんな塩でももともと天然のもの。
- 調理中に溶けてしまう塩なら、味の差はほとんどありません。
- こだわるなら、仕上げや食卓で塩そのものの味を楽しむときに。
- パッケージの印象に惑わされず、原材料や製法に目を向けること
毎日の食事に欠かせない塩だからこそ、正しく知って、無理なく使い分けていきたいですね。
これが「塩と上手に付き合う」ための第一歩です。
参考:
食用塩公正取引協議会 – https://www.salt-fair.jp/
公益財団法人塩事業センター「塩百科」- https://www.shiojigyo.com/siohyakka
あらしお株式会社 「精製塩とは?製法から特徴まで、伝統製法の塩との違いも詳しく解説」
https://www.arashio.co.jp/51/
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