「精製塩はただしょっぱい」
「天然塩は旨みがあって美味しい」
こんな話を聞いたことがある人は多いと思います。
塩売り場に行くと、天然塩や岩塩がずらりと並び、
どこか“良さそう”な雰囲気をまとっていますよね。
では実際のところ、
精製塩と天然塩に、はっきり分かるほどの味の違いはあるのでしょうか?
研究結果と調理実験、そして現場での実体験をもとに、
栄養士と調理師をもつ筆者が両視点で、この疑問をできるだけ冷静に整理してみます。
科学的に見ると、塩の味はほぼ同じ

まずは研究結果から。
2009年、英国の科学雑誌 Nature では、
一般的に使用されている塩は化学組成がほぼ同じであり、
味に有意な違いはない という結論が示されています。
また、2013年の米国の科学雑誌 PLoS One でも、
異なる種類の塩の味について、
ほとんどの人が区別できなかった という結果が報告されています。
どちらの研究も共通しているのは、
「塩の成分差はごくわずかで、味として認識できるほどではない」
という点です。
成分的に見れば、主成分はどの塩もほぼ塩化ナトリウム。
この結果は、ある意味とても納得がいきます。
……まあ、イギリスとアメリカの研究なので
「塩の繊細な味の違いなんてわかるのか?」と思う人もいるかもしれませんが。
料理にすると、塩の違いは残るのか?
では、日本の研究ではどうでしょうか。
「各種食塩の調理に及ぼす影響」
(松本仲子・三好恵子・杉田光代/J-STAGE)
という研究では、複数の塩を使った調理実験が行われています。
この研究で興味深いのは、
- 塩単体では、わずかな味の違いが認められた
- 旨味成分を加えると、塩の違いによる差は消えた
という結果です。
つまり、
料理として完成した状態では、どの塩を使ってもほぼ同じ
という結論になります。
ただし、この研究で比較されている塩が
「食塩」「精製塩」「並塩」「漬物塩」「赤穂の天塩」
と、やや似通ったラインナップなのは少し気になるところ。チョイスミスでは?
調理技術や再現性まで含めた実験は、今後さらに突っ込んだ検証があってもいい分野だとは感じます。
実際に食べ比べると、どう感じるか

一方で、個人的な体験として。
塩の専門店で、さまざまな種類の塩をそのまま舐め比べる 機会がありました。
(都内にありましたが今は沖縄に移転してしまいました。。)
10種20種と舐め比べると、確かに違うと感じる塩はありまし、個性も感じます。ただし、その数は多くありません。
ほとんどの塩は「まあ、同じだな」という印象で、
たまに「あ、これは違うかも」と感じるものがある程度。
天日塩が美味しいと思う商品が多かったです。
最近美味しいと思ったお塩はこちら。案件ではなく単なるリンクなのでお気軽に。
天然塩 | 西伊豆ところてんの盛田屋 伊豆盛田屋の完全天日塩がおすすめ。
塩は成分よりも「物理」だ

塩は成分だけでなく、粒の大きさや形状にもさまざまな違いがあります。
たとえば、
- 粉状
- 粒状
- フレーク状
- 大粒
- かたまり
といった具合です。
こうした形状の違いによって、
口の中での食感や溶けるスピードが変わり、それが味の感じ方に影響します。
- 粒が小さいほど、素早く溶けて塩味が立ち、シャープに感じやすい
- 粒が大きいほど、溶けるまでに時間がかかり、食感が加わって角の取れた塩味に感じやすい
ただし、塩を液体に溶かしてしまうと、
こうした食感や溶け方の違いはほとんど意味を持たなくなります。
そのため、塩の個性を活かしたい場合は、
スープや煮込みではなく、
仕上げに振りかける、あるいは添える塩として使うのがおすすめです。
プロの現場ではどうなのか

仕事柄、これまで10を超える飲食の現場を見てきましたが、
日常的な調理に使われているのは、ほとんどが精製塩です。
プロの現場で重視されるのは、塩の“キャラクター”よりも、
次のような使いやすさです。
- 食材に均等にまぶせるか
- 振ったときに、毎回ほぼ同じ量が出てくるか
調理では再現性やスピードが何より重要になります。
そのため、粒の大きさが安定していてサラサラと扱える精製塩は、
非常に都合がいいのです。
旨味やコク、雑味といった要素は、
だし・肉・野菜・発酵食品など、他の食材で表現するのが基本。
塩には、塩分としての役割以上のものを求めていません。
一方で、
天ぷらや肉料理などの「仕上げ」や「添える塩」には、こだわる店が多いのも事実です。
たとえばステーキに、
フレーク状の塩や粒の大きな岩塩をあえてまばらに振ることで、
一口ごとに塩味の強さが変わり、味にグラデーションが生まれます。
また、こうした塩は料理に直接つけて食べることで、
塩そのものの風味や食感を感じやすくなります。
味付けが塩のみの料理なんかだと、スープなどでもこだわる場合が多いですね。
つまり、プロの現場では
- 普段の調理には精製塩
- 仕上げや提供時のみ、用途に応じて塩を使い分ける
という使い方が、ごく自然に行われているというわけです。
まとめ
このテーマについては、立場によって結論が分かれると考えています。
研究結果として分かっていること
- 科学的には、塩の味の違いを人が明確に判別するのは難しい
- 旨味成分を含む液体に溶かすと、塩の違いはほぼ分からなくなる
現場感覚・体感として言えること
- 塩は製法や産地によって、確かに味の違いがある
- 味付けが「塩だけ」の場合、その違いは感じやすくなる
もちろん、研究結果についてツッコミどころがないわけではありません。
アメリカ人やイギリス人を対象にした官能試験に、
日本人の味覚をそのまま当てはめていいのか、という疑問は残ります。
また、
「食塩」「精製塩」「並塩」「漬物塩」「赤穂の天塩」といった、
比較的個性の近い塩同士での実験結果を、
すべての塩に当てはめていいのか、という点も気になるところです。
一方で、現場側にも注意点があります。
「天然塩は体に良くて美味しいはずだ」と、
根拠なく思い込んでしまっているケースも少なくありません。
精製塩と本当に違いがあるのか、
一度フラットな状態で食べ比べてみる価値はあるはずです。
最後に
「違いなんてないだろ」と思っている人は、
実際に食べ比べると、意外と違いがあることに気づき、
「塩の味が分からないのか」と思っている人は、
比べてみると、意外と大差ないことに気づく。
そのくらいの距離感が、
塩と付き合うにはちょうどいいのではないでしょうか。
参考文献・資料
- Nature(2009)
- PLoS One(2013)
- 松本仲子ほか「各種食塩の調理に及ぼす影響」J-STAGE

