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空気から作るバターって何?栄養士が話題の人工バターをわかりやすく解説

2026 1/14
January 14, 2026
関口アキラ

植物由来の代替肉(プラントベースミート)が当たり前になってきた今、
ついに「空気からバターを作りました」というニュースが飛び込んできました。
それってマーガリン? と思いきやそうではありません。

体に入れて大丈夫? 栄養的にはどうなの?

気になるポイントを、栄養士の視点から分かりやすく解説していきます。

目次

ニュース概要:「空気から作るバター」は本当に食の未来?

アメリカのスタートアップ企業Savor社が、空気中の二酸化炭素と水からバターを合成することに成功したと発表しました。

同社は大気中から抽出したCO2と水から取り出した水素を原料に高温・高圧下で化学反応を起こし、脂肪酸を人工的に作り出す熱化学プロセスを開発。こうして得た脂肪酸を組み合わせてトリグリセリド(油脂の主成分)に組み立てることで、動物も植物も使わない「空気からできたバター」が生まれました。

農地も家畜も使わないため環境負荷が小さく、通常のバター(乳脂肪80%)よりも温室効果ガス排出量を大幅に減らせるとされています(1カロリーあたりのCO2排出量は従来バターの約2.4 gに対し、この人工バターでは0.8 g以下)。ビル・ゲイツ氏もこの技術に注目して出資しており、試作品を味見した際には「本物のバターじゃないなんて信じられない」と絶賛するコメントを残しています。

参考:
「空気からバター」製造に成功 出資のビル・ゲイツ氏「味は本物と錯覚するほど」 テレ朝NEWS
https://www.theguardian.com/science/article/2024/jul/16/us-startup-lab-made-climate-friendly-butter-savor-bill-gates
https://ideasforgood.jp/2024/08/05/butter-made-from-co2/


「空気から作るバター」は本当にすごいのか?

ChatGPT Image

これを聞くと画期的な発明のニュースに感じます。
が、実際のところどうなのでしょうか。

人工バターの技術自体は昔からあった

実は、空気(厳密に言うとその中の二酸化炭素)などから脂肪(脂肪酸や油脂)を合成するというアイデア自体は目新しいものではありません。

STEP
CO₂ → 一酸化炭素(CO)

逆水性ガスシフト反応(RWGS)

STEP
CO + H₂ → 炭化水素

フィッシャー・トロプシュ(FT)合成

STEP
炭化水素 → 脂肪酸

酸化反応で –COOH を付加

STEP
脂肪酸 + グリセロール → トリグリセリド

トリグリセリドは中性脂肪のこと。バターの成分

例えば第二次世界大戦中の1940年代、ドイツでは石炭から人工バターを製造する試みが行われていました。
石炭を燃やして一酸化炭素と水素からなる合成ガス(Syngas)を作り出し、それをフィッシャー・トロプシュ法と呼ばれる反応で長鎖の炭化水素(パラフィン)に変換、さらに酸化処理で脂肪酸を取り出すことで、人工バターの原料を得ていたのです。

脂肪はさらに高真空下で蒸留され、食べられるものと食べられないものがある。そこからのレシピは以下の通りだ。純粋な合成食用脂肪に20%の水を加える。ビタミン補給のためにニンジンエキスを加える。そして着色料を加え、塩を加えます。最後に、バターの香りをつけるためにジアセチルと呼ばれる物質を注入します。この混合物は機械で泡立てられ、反対側から直径約20cmの長いソーセージのように出てきます(Google翻訳)

The Eagle Valley Enterprise, Volume 46, Number 46, September 6, 1946(1946年当時の新聞より抜粋)

100年近く前から人工バターを作る技術は存在した


「空気から作るバター」が普及しなかった理由

では、技術的には可能だったのになぜ今まで普及してこなかったのでしょうか。
理由をいくつか紹介します。

コスト面

石油やCO₂から人工的に脂肪を合成するには大掛かりな化学設備と大量のエネルギーが必要です。
普及していないメインの理由と言っても良いでしょう。植物油から作るマーガリンの方が圧倒的に安価でした。

風味が劣る

これまで登場した人工バターは風味が本物に劣り、市場定着に苦戦していました。
ドイツの1946年当時の記事では人工バターのレシピが載っていました(上の章で引用済)

心理的抵抗・安全性の懸念

工業用脂肪酸は炭素鎖が不揃いになりやすく、トランス脂肪酸や不快な臭気が発生する可能性も。
「石油からできた油を食べたくない」という心理も普及の妨げでした。

認可の問題

非食用物質から食用物質を作るには、未知の物質として安全性を証明し、
規制当局の認可を得る必要があり、実現には時間とコストがかかりました。


「空気から作るバター」が今回注目された背景

技術的には昔から可能だったこの手法が、今なぜ注目を集めているのでしょうか?

CO₂削減がより評価される時代なった

畜産業の温室効果ガス排出、パーム油栽培による熱帯林の破壊、地球温暖化の加速、など環境を守ろうとする動きが活発になってきた昨今、「空気から油を作る」という“脱農業”型の生産方法は高く評価されてきています。

投資マネーの流入

上記の理由からビル・ゲイツ氏など著名投資家が支援。
さらに技術革新により、空気からの油脂製造のコストとスケーラビリティが大幅に改善。
米イリノイ州にはすでにパイロット工場が稼働し、量産化も視野に入っているそうです。

ヴィーガン・代替食品ブーム

動物性不使用で環境にもやさしい食品へのニーズが高まり、「ヴィーガンでも使えるバター」としてのポジションが受け入れられやすくなっています。

規制の整備

アメリカではGRAS(一般に安全と見なされる)認定を取得し、合法的に食品市場に投入可能になりました。


バター・マーガリン・人工バターの違い

Image by congerdesign from Pixabay
項目空気からできたバターバターマーガリン
原料空気(CO₂)・水素牛乳植物油
製造方法合成化学(CO変換)撹拌と分離植物油に水素添加
カロリー(100g)不明(バターと同等と想定)717 kcal754 kcal
トランス脂肪酸なし(生成工程による)なし含まれる製品あり
コレステロール含まれない含まれる含まれない
味原料は無味。製品は本物に近いらしい(報道による)ミルクの風味香料で模倣

成分としてはマーガリンよりはバターに近いはずです。
個人的な予想ですが、「バター風味のラード」という表現が成分的にも近い…のかな?

現在のところ、Savor社や関連の学術論文として公開された詳細な工程資料や成分分析データ(PDF等) は公開されていません。報道は主に技術概要の紹介レベルです。味や風味などは第3者の公正な判断を待つ他ありません。


人工バターのメリット

脂肪酸を合成できるわけですから、別にバターである必要もないわけです。

ニュースでも「用途に応じて脂肪酸“組成”をデザインできるのが合成油脂の強みで、同社はバター以外にも牛脂やラード、ココアバター相当の油脂など様々なプロトタイプを開発している」とあります。


栄養士が見る人工バターの評価

さてそんな人工バターですが、健康面での評価はどうでしょうか。
製品としてのデータはないのであくまで予想ですが、大枠はこの通りです。

健康面での評価はできない

マーガリンはバターと比較して「飽和脂肪酸が少ない」「コレステロールがない」「安い」といったメリットがあります。

空気から作る人工バターは、報道では栄養成分的にはほぼバターと同じ。
ということは、カロリーも脂肪も“普通のバターと同等”と考えるのが妥当です。


栄養士の視点で気になるのはむしろ、イメージによる食べすぎ。
「環境に良いから大丈夫」
「動物性じゃないからヘルシー」
と思い込んで使いすぎれば逆効果です。

人工バターは珍しい技術の産物であっても、健康食品ではありません。

注目すべきは環境貢献のポテンシャル

とはいえ、環境負荷の低減という点では画期的な食品です。

畜産や油作物の栽培が引き起こす温室効果ガス排出や森林破壊の問題に対し、
農業に依存しない油脂生産は明確な解決策のひとつ。

ヴィーガン・エコ志向の消費者にとっても大きな意味があります。


まとめ

  • 空気(CO2)から人工バターを作る技術はかなり昔からあった
  • 再エネ技術・投資・環境意識の高まりで今注目された
  • 栄養的には「バターと同じ」で、健康食品ではない
  • 環境問題、ヴィーガン向けの食品としての価値は非常に高い

筆者としては、この技術には正直ワクワクしていますし、
環境負荷の軽減という点では大いに応援したい取り組みです。

とはいえ、栄養士の立場から一言添えるなら
どんなに未来的な製法でも、脂肪とカロリーは軽くなりません。
もし今後、人工バターが身近になったとしても、健康のためには“ほどほど”が大切です。


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参考資料

  • 米スタートアップの「空気からできたバター」。農地不使用でCO₂の排出削減 – IDEAS FOR GOOD
  • Butter made from CO₂, not cows, tastes like ‘the real thing’ – The Guardian
  • Synthetic fats made from only water and air could be environmentally transformative – Anthropocene
  • Halting Deforestation With Synthetic Biology-Produced Fats – SynBioBeta
  • Savor unveils first of its kind ‘butter’ made without agriculture – AgFunderNews
  • 空気からバター?二酸化炭素と水で作ったバターが本物と同じ味だとビル・ゲイツも絶賛 – カラパイア
  • I can’t believe it’s not butter from a cow – The Hustle
  • Behind the Scenes of our Article in Nature Sustainability – Savor公式ブログ
  • The need for new oils and fats – Bill Gates公式ブログ
  • 文部科学省「食品成分表」:バター・マーガリン
  • マーガリン – カロリー/栄養成分/計算 | カロリーSlism
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この記事を書いた人

関口アキラのアバター 関口アキラ 管理人

調理師、栄養士、フードスタイリスト、カメラマン。「食」にまつわる幅広い分野で活動中。飲食店の立ち上げやメニュー開発、料理撮影、メニューデザインなど多様な現場に携わる。
食の楽しさを伝えるメディア「趣食研究所」を運営し、記事の執筆・撮影・編集を一貫して手がける。科学的根拠に基づいた発信を大切にしています。
http://se-akira.com/

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