
パスタを茹でるときに塩を入れますが、ネットで調べてみるといろんな効果があるとかないとか。今回はそんなパスタと塩の関係お話から調理学の危うさについて解説をしてみます。
パスタを茹でるときは岩塩を使うと良いってホント?
パスタにこだわってる人は知っているかもしれませんが
パスタを茹でるお湯には岩塩を入れると美味しいという話があります。
粒が大きくてゆっくり溶けるから? 岩塩のミネラル分がパスタのコシを? など、さまざまな考察がされています。
実際、イタリアでは岩塩がよく使われるそうです。それは何故か。
その理由は、単に岩塩が安かったからです。
かつてのイタリアでは、精製塩よりも未精製の岩塩のほうが手に入りやすく、安価でした。パスタを茹でるだけならそれで十分。そんな「現実的な理由」が、いつの間にか“こだわりのテクニック”として日本に広まったようです。
現在でも、イタリアでは高価な塩を使ってパスタを茹でることはほとんどありません。
「茹でる用は安い塩でOK」が基本スタンス。むしろ、贅沢な塩は料理の仕上げに使うものです。
「パスタに岩塩は必須」と語る日本のサイトを見かけたら、イタリア語で検索してみてください。
“パスタ茹でるのに高い塩使うなんてもったいない”——そんな現地の本音が見えてくるはずです。
パスタを茹でるのに岩塩を使うのは、岩塩が安かったから


パスタを茹でるときに塩を入れる理由って?
料理好きや分子調理学界隈では、意外とよく議論されるこのテーマ。
よく語られる理由について、少し突っ込んで考えてみましょう。
「塩を入れると沸点が上がって美味しく茹でられる」説
理科の授業で「塩を入れると沸点が上がる」と習った記憶、ありますよね?
実際、塩分1%の水では沸点が100.17℃になります。たしかに数値上は上昇しています。
でも……0.17℃の違いで味が変わるとしたら、それはもう神の領域です。
ちなみに私は標高1,000mのゲレンデでパスタ屋バイトをした経験があります。
標高の影響で沸点は約97℃でしたが、普通に美味しいパスタが茹でられてました。
つまり、塩で沸点を上げる=味が変わる説は、ちょっと無理があるかもしれません。
「塩を入れるとコシが出る」説
これもたまに見かける話ですね。グルテンに塩分が作用して〜という意見。
しかも引用元がちゃんと論文だったりします。
ゆで水に添加する食塩の濃度がスパゲティの硬さに及ぼす影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej/66/3/66_120/_pdf/-char/ja
でも内容をよく読んでみると……
以上の結果より,ゆで水に通常使用する1%のNaCl 添加では,スパゲティの硬さには影響しないことがわかった
と明記されています。つまり、「1%の塩でコシが出る」は誤解です。
ちなみに塩分20%などの高濃度では多少影響が見られるようですが、日常使いの塩加減とはまったく別の話ですね。
じゃあ、なんで塩を入れるの?
理由はシンプルです。
そのほうが美味しいから。
何の味付けもしていない素パスタを、塩なし・塩ありで茹でて食べ比べてみてください。
1%程度の塩を入れた茹で汁で茹でたパスタは、ちゃんと塩気とうま味を感じます。
技術的な根拠よりも、「おいしく感じる」という事実のほうが強いんですよね。
もちろん、「時間が経つと差が出る」「食感が違う」など、いろんな意見があります。
そのうち自分で条件をそろえて実験してみようかな、なんて思ったりしてます。
パスタを茹でる時に塩をいれるのは、美味しいから
パスタを茹でるとき、塩はどれくらい入れるのが正解?
「1リットルの湯に塩10g」——
これがいわゆる黄金比。多くのイタリア家庭料理サイトでも紹介されている、スタンダードな塩加減です。
つまり、塩分濃度1%。
これが一番ベーシックで、シンプルなソースと合わせると、ちょうどいい塩味になります。
実はプロはもっとしょっぱい?塩分3%派も
料理のプロの中には、3%の塩分濃度で茹でる人も少なくありません。
たとえば、落合務シェフ(ラ・ベットラ)も3%派として有名です。
ただし、この濃度になると塩気が強すぎて扱いがやや難しい。
家庭で作るなら、1%が無難でしょう。
ソースとのバランスが大事!
ポイントは、「完成したときにちょうどよい塩味か」ということ。
- チーズ系の濃いソース
- アサリなど塩気の強い食材(例:ボンゴレ)
このあたりは、ソース自体がしょっぱくなりがちです。
そんなときは、茹でるお湯の塩分濃度を0.5%程度に落とすとバランスが取りやすくなります。
パスタを茹でるお湯の塩分濃度は1%
厳密に言うと「1%」じゃないってホント?
実はちょっとした豆知識ですが──
「1リットルのお湯に塩10g」って、正確には1%ではないんです。
なぜかというと:
- お湯:1,000g
- 塩:10g
- 合計:1,010g
- よって塩分濃度は 10 ÷ 1,010 ≒ 0.990%
本当に1%にしたいなら、塩は10.1g必要です。
パスタを茹でている人がいたらこの事実を伝えてみてください。鬱陶しがられること間違いなし。
硬水で茹でると美味しい?
余談ですが、硬水で茹でると食感が違う派閥もあるそうで。調理学に詳しい樋口さんが実験されていましたが、目にみえる結果はなかったそうです。


ちゃんと効果はあるんだ、という実験結果もあります。


ただし、“硬度1200の濃度では,超純水と比較して重量および容積が減少する傾向を示し”
という、ちょっと極端な結果。イタリアの水道水の硬度は200~300くらいのようですし、参考にはできなさそうです。
パスタを茹でるお湯、塩を入れるタイミング論争
調べているうちに知ったのですが──
イタリアでは、塩を「いつ入れるか」で激しい論争が繰り広げられているらしいのです。
- 派閥①:水から塩を入れて沸騰させる派
- 派閥②:沸騰してから塩を入れる派
これはもう「きのこたけのこ戦争」や「ミルクティーはミルク先か紅茶先か」に通じる、永遠の論争テーマ。
ちなみに私は後者、「沸騰してから入れる派」です。
シュワーッと一瞬にして溶けるあの音と勢い、最高に気持ちいい。 やればわかる。
それぞれの言い分、どれももっとも
先に塩を入れる派の主張はこんな感じ:
- 入れ忘れ防止になる
- 塩がしっかり溶ける
- お湯の沸点が上がるので、沸騰が早くなる(という説)
一方で後入れ派にはこんな意見も:
- アルミ鍋で粗めの岩塩を使うと、鍋底で塩とアルミが反応してシミができることがあるので後入れが無難
まあ結論としては──
「どっちでもいい」が正解かもしれないけど、それを言っちゃおしまい。
こういうどうでもいいこだわり、むしろ楽しむのが正解です。
アルデンテとバリカタの話をしよう
ついでなのでパスタつながりでもうひとネタ。
イタリアのパスタといえばアルデンテ。
「アルデンテ以外は認めない」なんて言う過激派もいるとかいないとか。
とはいえ実際のところ、
- 「イタリア人はそんなに気にしないよ」説
- 「家庭ではもっとやわらかめが普通」説
などもあり、真相は定かではありません。
でも、「イタリア人がアルデンテが良いと言うなら尊重しよう」という日本の姿勢は好きですね。
アルデンテ=美味しい?それって本当?
個人的には、これって福岡のとんこつラーメンの“バリカタ”論争と似ている気がします。
- 替え玉を早く食べたい、店も早く出したい→茹で時間を短くした
- そこから「通はバリカタ」という流れができ
- 最後には「バリカタが一番うまい」に昇格
最初は合理性だったのに、気づいたら“こだわり”になってる現象。
こういうの、めちゃくちゃ面白いなと思うんですよね。
アルデンテ論争も、そんな感じで後付けで理屈が増幅された食文化かもしれません。
まとめ – 理由が後付けになっていませんか?
ちょっと話があちこち飛びましたが、結局言いたいのは「後付けで理由が盛られて、いつのまにか“こだわり”に変わってしまう」って、よくあることだよねという話です。
最近では「分子調理学」や「調理は科学」なんて言葉もよく聞きますが、小学校での理科実験の知識を無理に結びつけて、それっぽく語っているメディアも多いです。塩で沸点あげるなんてその典型ですね。
でも実際のところ、もっとシンプルな理由でやってることの方が多かったりします。そしてその“シンプルな行為”こそ、ちゃんと理にかなっていたりもするんですよね。
メディアの知識を鵜呑みせず、自分で調べて見ることも大切…ですが、専門知識がなければその情報の良し悪しを判断するのも難しい。だからこそ、このサイトではできるだけ中立でわかりやすく、正しい情報を届けていけたらと思っています。
今後も「なんとなく信じてたこと」にツッコミ入れていきますので、お付き合いください。