特に女性に不足しがちな鉄分。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2022年)によると、20~29歳女性の1日あたり平均鉄分摂取量は5.9mgで、推奨量の約10.5mgの半分程度しか摂れていません。
| 年齢区分 | 性別 | 推奨量 | 実際の平均摂取量 |
|---|---|---|---|
| 20-29歳 | 男性 | 7.5 mg | 6.9 mg |
| 20-29歳 | 女性 | 10.5 mg | 5.9 mg |
鉄分不足は貧血や疲労感につながりやすく、特に若い女性に深刻な問題です。
鉄剤やサプリメントで補給する方法もありますが、
実は「鉄鍋」で料理をするだけで鉄分を効率よく摂取できることをご存知でしょうか?
調理のプロであり栄養士でもある筆者が、鉄鍋を使った鉄分補給のメリットや、
おすすめの調理法・効率の良い摂取方法について詳しく解説していきます。
鉄鍋で料理すると鉄分補給になるって本当?
鉄製の調理器具、特に鋳鉄製の鍋・鉄フライパンなどを使うことで、
調理中に鍋の表面から微量の鉄が溶け出して料理に移行します。
そしてその鉄は食材と一緒に体内に取り込まれ、結果として自然な形で鉄分補給ができるのです。
さらに鉄鍋から溶け出した鉄分は二価鉄(ヘム鉄)といい、体に吸収されやすい形になっています。
二価鉄(ヘム鉄)
肉・魚に含まれる。吸収率が高い(約15〜25%)
三価鉄(非ヘム鉄)
野菜・豆・穀類に含まれる。吸収率が低い(約2〜5%)
鉄びんで沸かした湯では溶出鉄中の78.5%が2価鉄で,これが時間の経過とともに減少する傾向がみられた。鉄鍋からの溶出鉄は,水 だけの場合は鉄びんとほぼ同 じ値 を示したが,食 塩や食酢を添加した場合は2価鉄の割合が増し,特に食酢添加ではおよそ98%と高値を示した。しかも時間の経過による減少も少なかった。これは食酢添加によりpHが低下して2価鉄が安定化したためと考えられる。
調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化, 今野暁子, 及川桂子, 日本調理科学会誌/36巻 (2003)1号
二価鉄(ヘム鉄)は自動酸化して三価鉄(非ヘム鉄)に転換されやすいといわれています。
もし三価鉄(非ヘム鉄)に転換されてもビタミンCと一緒に摂取することで吸収率が上がります。
詳しくはこちらの記事で。

鉄鍋から溶け出す鉄分は安全?
鉄鍋料理で鉄が溶け出すと聞くと、「金属成分を摂取して平気なの?」と不安になるかもしれません。
結論から言えば、鉄鍋から溶出する鉄分は安全です。
鉄鍋や鉄フライパンは基本的に鉄(Fe)のみで作られており有害な物質を含まないため、
調理中に溶け出すのはごく微量の鉄分だけです(しかも前述の通り体内で吸収されやすい形態です)。
同様に、市販されている調理器具はアルミ鍋やステンレス鍋であっても、
通常の使用で溶け出す金属量はごく微量で安全基準内とされています。
日常的に金属鍋で調理を行っても、その金属によって中毒になる心配はまずありません。
古い銅鍋だけは注意
ただし銅製の鍋だけは注意が必要です。酸性の食品を銅鍋で長時間煮込むと、銅イオンが過剰に溶出して中毒を起こす可能性があります。昔は銅鍋でジャムを作って緑青(銅サビ)中毒になる事故もありましたが、現在の多くの銅鍋には錫やステンレスの内張りが施されており直接銅が溶け出さないよう工夫されています。それでも古い銅鍋を使う場合や、内張りが傷んでいる場合は酸性のもの(酢や梅干し、果実など)の調理は避けた方が良いでしょう。
鉄分を効率よく摂取するコツ
鉄鍋を使えば何でも鉄分が増えるとはいえ、より効果的に鉄分を摂取するために押さえておきたいポイントがあります。
以下に鉄鍋で効率よく鉄分を取り込むコツをまとめます。
効果的に摂取できるコツ・調理法
- 酸味のある食材・調味料を活用
鉄は酸に触れると溶け出しやすいため、酢やトマト、ケチャップ、ワイン、梅干しなど酸味のある材料を使うと鉄分溶出量が増えます。例えば鉄鍋で酢豚やトマト煮込み、ビネガー入りのスープを作るなど、酸っぱい要素を加えると効果的です。 - 汁ごと食べられる煮込み料理に使う
加熱時間が長く、水分ごと摂取できる料理ほど鉄鍋の恩恵が大きいです。スープ、シチュー、おでん、煮魚、カレーなど汁ごと食べる煮込み料理は鉄鍋との相性抜群です。 - 調理中によくかき混ぜる
鉄鍋の鉄分は、食材が鍋肌に触れることで移行します。そのため頻繁にかき混ぜて食材と鍋の接触面積を増やすと鉄の溶出量が増える傾向があります。 - 新品または油膜の薄い鉄鍋を使う
鉄鍋は使い込むほど油が馴染んで表面がコーティングされ、錆びにくくなる一方で鉄が溶け出しにくくなります。
購入したての鉄鍋や、あまり油を吸っていない状態の鍋の方が鉄分は出やすいです(とはいえ新品は錆びやすいので扱い注意です)。
あまり効果のない例
- 内側にテフロンや琺瑯などコーティングされている
メイン素材が鉄でもコーティングされていれば鉄分は溶け出しようがありません。防錆加工が施された鉄鍋は、鉄分目的なら避けましょう。 - ただ炒めるだけの調理
油だけでの炒め物や揚げ物、汁気のない炒め物では鉄はほとんど溶け出しません。 - 短時間での調理
調理時間が短いと、鉄分は溶け出しません。
こうしたポイントを押さえておけば、鉄鍋を使った鉄分補給の効果を最大限に享受できます。
鉄鍋調理でどれくらい鉄分が増える?実例で検証
実際に鉄鍋を使うと、料理中の鉄分量が具体的にどの程度増えるのでしょうか。
研究や実験の報告から、いくつか具体例を見てみましょう。
お湯
鉄のフライパンとテフロンのフッ素加工のフライパンでお湯を沸かして検証していた記事がありました。
https://www.wahei.co.jp/reading/trivia/35968.html
結果は100mlあたり0.05mg。フッ素加工のフライパンでは鉄分が検出されなかったので、鉄分は溶け出していることはわかりましたが、1日7~10mg摂取することを考えると微量ですね。
白米の炊飯
お米を鉄鍋で炊くと100g中の鉄分が0.67mgから1.97mgに増加したとの報告があります。
増加量は約1.3mgと中程度ですが、毎日の主食で少しずつ鉄分をプラスできるのは大きなメリットです。
鉄鍋炊飯なら、ご飯をよそった茶碗1杯分(150g前後)で約2~3mgの鉄を補給できる計算になります。
3食食べることを考えるとかなり大きい鉄分量です。
炒め物の例(エビチリ)
日本の調理器具メーカーが行った実験では、中華料理のエビのチリソース炒めを鉄鍋とフッ素加工鍋で比較しています。
https://www.wahei.co.jp/reading/trivia/35968.html
その結果、鉄鍋で調理した場合は鉄分5.7mg/100gと普通の鍋の約28倍もの大きな差が出ました。
(フッ素加工鍋では0.2mg/100g)
100g中に成人男性の1日必要量(7.5mg)に近い鉄が含まれたことになります。
これは調理条件(酸味や水分の多さ)によって大きく変動する点に注意が必要です。
トマトソース(スパゲティソース)
鉄鍋で調理すると100gあたりの鉄分が0.6mgから5.7mgに大幅アップしたとの報告があります。
これは、ほうれん草約250g分に相当する鉄分量です。
酸味のあるトマトを煮込む料理では顕著に鉄が溶け出すことがわかります
(対照的にステンレス鍋で調理した場合はほとんど増加が見られませんでした)。
りんごの煮物(アップルソース)
同様に酸のあるリンゴを煮たアップルソースでは、100g中の鉄分が0.35mgから7.3mgに跳ね上がったとのデータがあります。
whatscookingamerica.net
これは、ほうれん草約350g分に相当する鉄分量です。
リンゴの酸(クエン酸等)によって鉄がより溶け出した好例です。
スクランブルエッグ
生卵の状態では1.49 mgでしたが、鉄鍋の調理で100g中の鉄分が3.27 mg増加。
whatscookingamerica.net
卵って鍋にくっつきやすいからでしょうか? 意外に増えました。
フライドポテト
生の状態では0.42 mgでしたが、鉄鍋の調理で100g中の鉄分が0.38 mg増加。
whatscookingamerica.net
他と比べると微増です。やはり揚げ物+短時間は効果が薄いです。
これらの実例から分かるように、特に酸味が強く水分の多い料理を鉄鍋で煮込むと鉄分が大幅に増加します。
一方、炒めるだけの料理や酸性でない材料の場合、鉄分溶出の効果はそれほど大きくありません。
料理の内容によって鉄鍋から出る鉄の量は大きく異なるのです。
鉄分の過剰摂取に注意
鉄分の過剰摂取は、成人男性で1日50mg、成人女性で40mg(耐容上限量)になります。
例に出した鉄鍋エビチリ(5.7mg/100g)なら1kg近く食べる必要があるので、通常の食事では超えにくい量です。
しかし、鉄サプリメントの同時摂取をしてしまうと過剰摂取の恐れがあります。
長期的に過剰摂取すると肝臓・心臓・膵臓などに蓄積し、糖尿病や肝機能障害、心筋梗塞のリスクを高めることがあります。急性中毒では嘔吐、腹痛、意識障害を起こすこともあります。
鉄鍋の選び方とおすすめ
鉄鍋で鉄分補給をするには、使う調理器具の種類が重要です。
選ぶ際のポイントと、初心者にも扱いやすい鉄鍋の種類を紹介します。
鉄分摂取効果におすすめの鉄鍋・フライパン
- 鉄製のプレス式or打ち出しフライパン
鉄製であれば何でもOK。プレス式は工業的で安く、打ち出し式は職人こだわりの品質です。
しかし今回は鉄分の話。溶け出せば製法は何でも大丈夫です。 - コーティング無しの鋳物の鍋
鋳物とは溶けた鉄を型に流して作る製法で作られたもののこと。厚みがあり、重いのが特徴です。
選ぶ際はコーティングされていない鉄だけのものを選んでください。 - スキレット
アウトドアで利用する機会が増えたスキレット。これが一番安価で試しやすいと思います。
安くても鉄製ではあるので、鉄分摂取は期待できます。 - 伝統的な南部鉄器
岩手県の伝統工芸品である南部鉄器もおすすめです。南部鉄器の鉄鍋や鉄瓶は厚手で蓄熱性が高く、じっくり煮込む料理に最適です。使い込むほど味が出る頑丈さも魅力でしょう。「鉄卵」という南部鉄器の鉄玉を湯に入れて鉄分補給する商品もあるほどで、南部鉄器は鉄分補給ツールとして伝統的に親しまれてきました。
新品の鉄製の鍋やフライパンには、通常、錆止めのシリコン塗装が施されています。売り物が錆びたら困りますからね。
これに関しては使用時の高温加熱ですぐに飛ぶので問題ありません。
鉄分摂取効果が期待できない鉄鍋・フライパン
- 琺瑯(ほうろう)の鍋(ル・クルーゼの鍋、バーミキュラのフライパンなど)
鉄など金属の表面に、ガラスを焼き付けた複合材料。
ル・クルーゼの鍋は鉄製の鋳物ですが、ガラスが吹き付けられています。使いやすさを全面に出した鉄鍋は、このようなコーティングがされている場合があるので、普段使いには便利ですが、鉄分摂取の観点から言うとお勧めできません。
まとめ
鉄分不足に悩む女性にとって、「鉄鍋で料理する」ことは最強の鉄分摂取法と言っても過言ではありません。
毎日の調理で使う鍋やフライパンを鉄製に替えるだけで、食材からプラスアルファの鉄分を摂取できるのです。
特にトマトや酢を使った煮込み料理など酸味のあるレシピでは鉄鍋効果が高く、貧血予防に一役買ってくれるでしょう。
とはいえ、鉄鍋料理はあくまで日々の栄養補助の一環です。
重度の貧血の方は医師の指導のもと鉄剤治療が必要な場合もありますので、自分の体調と相談しながら取り入れてください。
鉄鍋は正しく使えば一生ものの調理器具になります。おいしい料理を楽しみながら健康もサポートしてくれる鉄鍋を、ぜひキッチンの相棒に加えてみてはいかがでしょうか。鉄鍋料理で、毎日の食卓から鉄分不足を解消しましょう!
参考資料
調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化, 今野暁子, 及川桂子, 日本調理科学会誌/36巻 (2003)1号
鉄に関する最近の研究と知見,吉野芳夫,久安早苗, 栄養学雑誌 Vol.45 No.4 155~164(1987)


