アスパルテームは日本で最も広く使われている人工甘味料のひとつで、0カロリー飲料やダイエットコーラなどに多く含まれています。
しかし2023年7月、WHO傘下の国際がん研究機関(IARC)がアスパルテームを「発がん性が疑われる(グループ2B)」に分類したことで、不安の声が広がりました。
この発表を受け、一部企業がアスパルテームの使用を中止するなどの動きも出ましたが、これは「発がん性が確認された」という意味ではありません。本記事では、アスパルテームの危険性について、栄養士の立場から科学的根拠にもとづいて解説します。
アスパルテームの危険性?とは

アスパルテームは、アスパラギン酸とフェニルアラニンという2種類のアミノ酸から作られる人工甘味料です。砂糖の約200倍の甘さがありながら低カロリーで、1965年の発見以来、世界中で広く使用されています。
IARC「発がん性が疑われる」グループ2Bとは

IARCは食品・化学物質・嗜好品・行為などを対象に、“発がん性の可能性の強さ”を分類する機関です。
分類は以下の5段階です。
- 1:ヒトに対して発がん性がある
- 2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある
- 2B:ヒトに対する発がんの可能性がある
- 3:ヒト発がん性について分類できない
- 4:ヒトに対しておそらく発がん性がない
アスパルテームは2023年にこのグループ2Bに分類されました。
これは「ヒトでの証拠は限定的だが、動物実験では一部根拠がある」程度を意味します。
「危険物質になった」という誤解について
IARCの2B分類には、以下のような一般的な食品も含まれています。
- アロエ抽出物
- 漬物
- ふき・わらび
これらは日本で日常的に食べられていますが、大きな健康問題として扱われてはいません。
つまり “2B=危険” ではありません。
「可能性が示唆されたため、研究が必要」という程度の分類です。
重要:IARCとJECFAの役割はまったく違う
ここで誤解されやすい点ですが、
IARCは“危険性(ハザード)”を評価するだけであり、
“実際のリスク(どのくらい摂取すると危険か)”は評価しません。
一方、
JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)やEFSA(欧州食品安全機関)はリスク評価を行う機関です。
EFSA(2013年)

アスパルテームは
「設定されている摂取量の範囲内では健康リスクは認められない」
と評価。
JECFA(1981年 → 2023年再確認)

設定している許容一日摂取量(ADI)
40 mg/kg体重/日 を変更する必要なし
との結論。
日本の食品安全委員会
IARCの発表後も
「摂取基準を変更する必要はない」
との見解。
つまり、世界中のリスク評価機関はいずれも“通常の摂取量では問題ない”と判断しています。
すでに世界中で長期間使われている

アスパルテームは約40年以上、100ヶ国以上で使用され、複数の公的機関によって安全性が確認されています。
今回の騒動は、複数ある機関のうちの1つ(IARC)が「発がんの可能性を完全には否定できない」と述べたにすぎません。
SNSでは過度に不安視する投稿が多く見られましたが、
科学的には「摂取量の基準を守れば問題なし」という結論が主流です。
ちなみにアスパルテームの許容一日摂取量(ADI:人が、毎日、一生涯、食べ続けても、健康に悪影響がでないと考えられる量)は60kgの人で500mlのゼロコーラ8~12本です。
毎日500mlのゼロコーラ10本飲んでもアスパルテームによる健康リスクはないと考えて良いですが…何事もほどほどに。




参考資料
- 国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html - 食品安全情報(化学物質)No. 26/ 2013(2013. 12. 25) 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2013/foodinfo201326c.pdf
- EFSA(European Food Safety Authority)”Aspartame (Q&A): What is it and what foods contain this additive?” https://www.eufic.org/en/?ACT=115&path=global%2Fpdf%2Faspartame-qa&size=Letter&orientation=portrait&key=&attachment=1&compress=1&filename=aspartame-qa.pdf&default_font=#:~:text=Today%2C%20the%20European%20Food%20Safety%20Authority%20(EFSA),)%20was%20published%20on%2010th%20December%202013.
- Summary of findings of the evaluation of aspartame at the International Agency for Research on Cancer (IARC) Monographs Programme’s 134th Meeting, and the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives (JECFA) 96th meeting

- 日本食品安全委員会 アスパルテームに関するQ&A



