人工甘味料については「体に悪い」「発がん性がある」といった情報がSNSで広まり、必要以上の不安を抱いている人が少なくありません。
しかし、WHO/FAO、FDA、EFSAなどの国際的な食品安全機関は、長年の研究と再評価にもとづき、 「許容摂取量(ADI)以内なら安全に使用できる」 と結論づけています。
人工甘味料=危険という単純な話ではなく、「正しく使えばメリットがある」というのが現状の科学的な結論です。
一方で、甘味への依存性や腸内環境への影響など、注意したい点も確かに存在します。
この記事では、代表的な人工甘味料の特徴と安全性を、栄養士の立場から分かりやすく解説します。
人工甘味料とは?

人工甘味料とは、砂糖よりも強い甘さを持ち、カロリーをほとんど含まない甘味料のことです。
少量でしっかり甘さが出るため、ゼロカロリー飲料やダイエット食品によく使われています。
「甘味を感じやすい性質を持つ化合物」であり、糖そのものではありません。
代表的な人工甘味料
以下は日本や世界で広く使われている代表的な人工甘味料です。
アスパルテーム

ゼロコーラなどの0カロリー飲料によく使われる甘味料。
甘さは砂糖の約200倍。アスパラギン酸とフェニルアラニンという2つのアミノ酸から作られます。
安全性
- ADI(許容一日摂取量):40mg/kg(JECFA・EFSA)
- 体重60kgなら → 毎日500mlのゼロコーラ8~12本ほど飲んでも影響無し
2023年にWHO傘下のIARC(国際がん研究機関)が「発がん性の可能性(2B)」に分類して話題になりましたが、これは“発がん性の可能性があるかもしれない”という危険性(ハザード)の話であり、実際のリスク評価ではありません。
一方でFAO/WHOの合同専門家会議(JECFA)は「ADI(許容一日摂取量)内なら健康影響なし」と結論しています。

ステビア(ステビオール配糖体)

植物「ステビア」の葉から抽出した甘味料。天然由来ですが高度に精製されるため、人工甘味料と同じ基準で評価されます。
- 甘さは砂糖の300倍程度
- マテ茶の甘味づけとして南米で古くから使用
安全性
味に独特の苦味があるため、他の甘味料とブレンドされることが多い
ADI(許容一日摂取量):4mg/kg(ステビオール当量)
→体重60kgの人で、砂糖にすると約70g分の甘さまでは毎日とっても安全域とされています。
アセスルファムK(アセスルファムカリウム)

甘さは砂糖の約200倍。
後味がすっきりしており、アスパルテームやスクラロースと相性が良い
安全性
- ADI(許容一日摂取量):15mg/kg(JECFA・EFSA)
→体重60kgなら、砂糖にすると約180g分の甘さまでが1日の安全な上限(ADI)です。 - 変異原性・発がん性は認められていません
製造工程で発がん性のある塩化メチレンが使用されており、人工甘味料アンチからは問題視されています。もちろん製品に残留などされていませんし、それをいうならジャガイモは放射線照射されてるし、水道水には有毒な塩素が含まれています。
スクラロース

砂糖(スクロース)を化学的に修飾した甘味料。
- 甘さは約600倍
- 砂糖に近い自然な甘味で、後味が少ない
安全性
- ADI(許容一日摂取量):15mg/kg(EFSA・JECFA)/FDAは5mg/kg
→体重60kgなら、砂糖にすると約500〜540g分の甘さまでがADIです。 - 体内でほぼ代謝されず、そのまま排泄される
ただし、120℃以上の高温加熱で微量の分解物ができる可能性が指摘されており、
焼き菓子など高温調理では利用しないのが無難です。
サッカリン
サッカリンはショ糖の 300 倍、サッカリンナトリウムはショ糖の 200~700 倍の甘味度を持ちます。
金属的な苦味があり、単体では使われにくい甘味料。
安全性と歴史
日本では1901年から使用を許可されましたが、1960年代に行われた動物実験で発がん性を指摘され、1971年に GRAS(一般に安全と認められる物質)指定が削除されたことなどから、1973年からサッカリンナトリウムの一部商品(しょう油、たくあん漬、アイスクリーム類など)を除き、一般食品への使用を禁止しています。
再調査の結果、1975年にサッカリンの発がん性は否定されました。そのため、世界的には問題ないとされているサッカリンですが、日本では現在でも一部食品のみの使用に制限されています。
ネオテーム
アスパルテームを改良した甘味料で、
甘さは驚異の約7,000〜13,000倍。
安全性
- ADI(許容一日摂取量):1mg/kg(日本の食品安全委員会)
→体重60kgの人で、砂糖にすると約600g分の甘さまで毎日とっても安全域とされています。 - ごく微量で甘味をつけられるため、実際の摂取量はADIの1/10以下
2002年にアメリカ食品医薬品局(FDA)により食品への使用が許可され、日本では2007年12月28日に食品添加物として正式に認可されました。
ネオテームの食品添加物としての指定の可否について 厚生労働省
ミラスィー®とは? ネオテームとは? MP五協フード&ケミカル株式会社
甘くて低カロリーなら全部の砂糖の代わりにすれば?
甘くて低カロリー・カロリーゼロなら世の中の全ての甘いお菓子はこれを使えば良いと思いませんか?
ところがそうもいかないんです。
味の問題
砂糖に完全にとって変わらない理由は「単純に美味しくない」からです。
砂糖は舐めると甘さだけを感じますが、人工甘味料の中には苦味や特有の味わいがあるものが多いです。そのため下手なノンシュガー飲料を飲むと、ケミカルな味がすることがあります。
しかし、人工甘味料も組み合わせや配合次第ではこの特有の味わいを消すことも可能です。コカコーラゼロが代表例で、発売当初はケミカルな味がして明らかに不人気でしたが、現在では企業努力で通常の砂糖を使ったコカコーラと区別できないほど甘味が調整されています。
調理性の問題
人工甘味料の中には水に溶けにくい、熱に弱いと言った特性をもつものが多いです。
例えばアスパルテームは150℃以上の加熱で急速に分解が進んでいき、甘味が消えていきます。
また、カラメル化しないので焼き色がつきにくかったり、糖分ではないので発酵に使えないというデメリットもあります。
また砂糖の数百〜数万倍の甘みを持つ人工甘味料は、砂糖と違い小さじ1杯入れるというわけにもいきません。0.01g加える、なんて事は通常の調理では難しいです。
イメージの問題
安安全性については複数の公的機関が問題なしと評価している人工甘味料ですが、どうしても“化学物質っぽさ”があるため、イメージの面では不利になりがちです。健康志向の人ほど人工甘味料を敬遠しやすく、商品としても通常の砂糖(ショ糖)を使ったほうが好まれる場面は少なくありません。
さらにSNSでは、
- 明らかに現実的でない“高用量の動物実験”の結果がそのまま拡散されたり
- 相関関係を、あたかも因果関係のように報じるメディアがあったり
- 「天然=安全」「人工=危険」という直感的な思い込み
- ゼロカロリー食品への“なんとなくの不信感”
といった要素が重なり、人工甘味料への誤解が広がりやすい状況があります。
多くの厳密な試験を経て安全性が確認されているにもかかわらず、イメージだけで一括りに否定してしまうのは得策とは言えません。
この誤解は、いわゆる“エセ科学”や根拠の薄い健康商法へ誘導されてしまう温床にもなるため、注意が必要です。
本当に健康に影響はないの?
人工甘味料は砂糖に比べて歴史が浅く、完全に将来のリスクがゼロとは言えません。
しかし、それは世界中の科学者も理解しています。その上で、
“一生毎日摂り続けても問題が出ない量(ADI)”
を設定し、商品もその基準内で作られています。
現状の科学的結論は、「過剰摂取を避ければ安全」これ以上でも以下でもありません。
よくある人工甘味料の「危険」ポイントと筆者の見解
人工甘味料の摂りすぎは健康に悪いのでは?
→ 現在問題になっているのは、むしろ“砂糖の摂りすぎ”です。
糖質制限中の人や、甘味を減らしたい人にとって 人工甘味料は「甘味をあきらめなくていい選択肢」 でもあります。
もちろん過剰摂取は推奨しませんが、砂糖の代替としての役割は十分にあります。
甘味に鈍感になり、糖質を摂りすぎる恐れがある!
→ よく引用されるのは、「人工甘味料入りの餌のほうが、ラットが多く食べた」という実験ですが、
“甘い餌”と“甘くない餌”を比べたら、そりゃ甘い方を多く食べるよね
という話で、人間の実生活にそのまま当てはめるのは無理があります。
この手の研究は「可能性が示唆された」という段階であり、
“強いエビデンス”というより“懸念として語られている” 程度の内容です。
自然由来の甘味料のほうが安全だ!
→ その理屈だと、「自然由来の砂糖の摂りすぎ」が世界的な問題になっているのは説明がつきません。
自然由来で低カロリーな甘味といえば「糖アルコール」ですが、
- キシリトール
- ソルビトール
などは 摂りすぎると普通にお腹を下します。
さらにエリスリトールについては、
2023年に「心疾患リスクが高い人で、血中濃度が高いと心臓発作・脳卒中リスク上昇の可能性」 を示す研究も出ています。
(一般の健康な人にそのまま当てはまるとは言えませんが。)
要するに、“自然由来=安全” ではない、ということです。
飲料メーカーの陰謀だ!
→ 知ってました? 地球って実は“平ら”らしいですよ……。
(もちろん冗談です。)
こうした陰謀論めいた話は、根拠が無いだけでなく、
「だから人工甘味料は危険。代わりにこの“自然派サプリ”を……」
といった“怪しい健康商品”に誘導されるケースが後を絶ちません。
不安をあおって購買につなげるのは典型的な手口なので、
陰謀論 × 健康食品のセット売り
には特に注意が必要です。
まとめ
人工甘味料は、正しく使えばとても便利な甘味料です。
もちろん大量摂取は避けるべきですが、
ゼロコーラを毎日10本飲んでもADIに届かない程度の安全域が設定されています。
最後にもう一度まとめると、
“砂糖よりはマシ、でも万能ではない”
—この距離感がちょうどいい。
人工甘味料は「毒」でも「完全に健康的」でもありません。
自分の食生活に合わせて、上手く使うための選択肢のひとつです。




参考文献・引用リンク一覧
■ アスパルテーム
- EFSA. Scientific Opinion on the re-evaluation of aspartame (E 951) as a food additive. 2013
https://efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/3496 - JECFA Monographs – Aspartame
https://www.fao.org/3/jecfa/monograph6.pdf - U.S. FDA – Additional Information about High-Intensity Sweeteners
https://www.fda.gov/food/food-additives-petitions/additional-information-about-high-intensity-sweeteners
■ ステビア
- JECFA. Steviol glycosides safety evaluation.
https://www.fao.org/3/i0447e/i0447e.pdf - 厚生労働省 食品添加物データベース(ステビア)
https://www.ffcr.or.jp/zaidan/FFCRHOME.nsf
■ スクラロース
- EFSA. Re-evaluation of sucralose (E 955). 2017
https://efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4785
■ アセスルファムK
- EFSA. Re-evaluation of acesulfame K (E 950). 2010
https://efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/1504
■ エリスリトール
- Nature Medicine. Association of erythritol with cardiovascular risk. 2023
https://www.nature.com/articles/s41591-023-02223-9
■ 腸内環境との関係
- Suez J et al. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature, 2014
https://www.nature.com/articles/nature13793


