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“天然塩”の正体とは?再生加工塩と国産塩の仕組みを整理する

2025 12/15
栄養学 ミネラルについて 調味料について
塩 栄養学 食文化
December 15, 2025
関口アキラ

スーパーに並ぶ塩を見ると、
「国産」「海の塩」「天然塩」「藻塩」といった言葉が目に入ります。

なんとなく
精製塩と比べて自然そう
体に良さそう

という印象を持つ人も多いのではないでしょうか。

ですが、塩の表示や製法をきちんと見ていくと、
そのイメージとは少し違う実態が見えてきます。

この記事では、
“天然塩”と呼ばれている塩の中身と、
再生加工塩・国産塩の仕組みを、整理して解説します。


目次

再生加工塩とは何か

「再生加工塩」とは、
輸入した原塩をいったん水に溶かし、
そこに日本の海水を加えてから、再び結晶化させた塩のことです。

ゲレロネグロ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%83%AC%E3%83%AD%E3%83%8D%E3%82%B0%E3%83%AD

原塩は主に、
メキシコやオーストラリアなどで、
大規模な天日塩田によって生産された塩です。

この原塩を使うことで、

  • 一から海水を煮詰める必要がない
  • 製造工程が短くなる
  • 比較的低コストで安定生産できる

といったメリットがあります。

さらに、日本の海水を加えることで、
マグネシウムやカルシウムなどのミネラル分も、
多少は含まれるようになります。

製法としては、
非常に合理的で、実用性の高い方法だと言えるでしょう。


なぜ地名が前面に出るのか

再生加工塩の特徴として、
「伯方の塩」や「沖縄の塩 シママース」「赤穂の天塩」など、
地名が商品名に使われているケースが多い点が挙げられます。

これらの塩は、

  • 原料:海外産の原塩
  • 加工:日本国内(瀬戸内海・沖縄など)

という形で作られていることがほとんどです。

「伯方の塩」と言っているが中身はメキシコの塩じゃないか!という声もありますが
加工は国内で行われているため、表示としては問題ありません。


“天然塩風”でも中身は再生加工塩、というケース

いかにも天然塩らしいパッケージでも、
成分表示を確認すると再生加工塩だった、
というケースは珍しくありません。

  • パッケージの見た目
  • ネーミングに地名が入っている

だけでは、原塩の産地までは判断できません。

塩を選ぶ際は、必ず原材料名を確認する必要があります。

原材料名に
天日海塩(メキシコまたはオーストラリア)
などと言う記載があれば再生加工塩です。


再生加工塩は「悪」なのか

ここまで読むと、「なんだか騙されているようで嫌だ」
と感じる人もいるかもしれません。

ですが、再生加工塩や工業的な製法そのものを、悪だと考える必要はありません。

日本で消費される塩を、昔ながらの塩田で作っていたら
消費に追いつかず、価格も高騰してしまうことでしょう。

他の国と違い、岩塩や湖塩が取れず、湿度が高いので大規模な塩田も作りにくい日本にとっては
塩というのは本来得るのにコストがかかるものなのです。

こうした技術や企業努力があるからこそ、

  • 品質が安定した塩を
  • 手頃な価格で
  • 毎日の食卓に

供給することができています。

再生加工塩は精製塩に対抗するために生まれた?

再生加工塩の代表例として挙げてきた
「伯方の塩」や「シママース」ですが、
その歴史をたどると、少し見方が変わってきます。

1971年、日本の塩づくりは、
昔ながらの塩田による製塩から、
イオン交換膜を用いた工業的な精製塩へと大きく切り替わりました。

当時、塩は「塩専売法」によって国が管理しており、
自由に天日塩などを製造・販売することはできませんでした。

伝統的に塩づくりを生業としてきた人たちにとって、
これはまさに死活問題です。

そこで、
「なんとか昔ながらの塩を残せないか」
「精製塩以外の選択肢をつくれないか」
と、国に対して交渉を重ねた人たちがいました。

その結果、
非常に厳しい条件付きではありますが、
製造を認められたのが
「伯方の塩」や「シママース」に代表される再生加工塩です。

生産上の制約(※1)

1973年、厳しい生産上の制約のもと、国から生産販売委託の認可がおりました。

1. 国がメキシコやオーストラリアから輸入していた「原塩(天日塩田塩)」を利用すること。海水から直接塩をつくってはいけない。

2. 平釜(熱効率が悪い釜)を使うこと。

3. 専売塩を誹謗(ひぼう)してはならない。

4. 袋のデザインや文言の変更も専売公社の確認をとること。

※ 日本専売公社(専売公社)とは
国の収益を目的に【たばこ】と【塩】の専売事業を行ってきた、全額政府出資による公共企業体。1949年に大蔵省の外郭団体として設立、 1985年に民営化され解散。また、専売公社が製造・販売を管理していた塩を【専売塩】と呼んでいた。

https://www.hakatanoshio.co.jp/history/

日本専売公社の闇ってやつですね。

こうした背景を見ると、
現在の価値観から単純に評価するのは難しいものの、
かなり厳しい条件の中で、各メーカーが工夫を重ねていた
ということは事実でしょう。

参考:
伯方の塩誕生物語:https://www.hakatanoshio.co.jp/history
シママースの歴史:https://www.aoiumi.co.jp/history/


塩専売法の廃止と、その後

1997年4月、塩専売法が廃止され、
海水から直接塩を製造することが可能になりました。

これをきっかけに、
日本各地で海水塩を製造するメーカーが次々と誕生し、
いわゆる「こだわりの塩」が増えていきます。

一方で、
「伯方の塩」や「シママース」は、
現在も再生加工塩として、
安定した品質と価格を保った商品を提供し続けています。

同時に、こだわりたい層に向けては、別ブランド・別商品として海水塩も展開しています。

  • 伯方の塩
     →「されど塩」(天日・平釜)
  • シママース
     →「沖縄の海水塩 青い海」(イオン交換膜・平釜)

もちろん、
後発メーカーの中には、
天然塩のようなイメージで再生加工塩を販売しているケースもあります。

ただ、
少なくとも「伯方の塩」や「シママース」については、
こうした葛藤と制約の歴史の中で生まれた商品
であることも、知っておいてほしいところです。


国産塩の仕組み

もうひとつ、よくある誤解があります。

それは、国産塩=海水を一から煮詰めて作っている
というイメージです。

実際には、多くの国産塩が、

  • イオン交換膜を使って海水を濃縮
    (いわゆる「イオンかん水」)
  • その後に加熱・結晶化

という工程を経て作られています。

これは、一から大量の海水を煮詰めるよりも、
エネルギー効率が高く、現実的な製造方法だからです。

ただし製造工程として見ると、
原塩を輸入して再生加工塩を作る方法と、
本質的に大きな違いがあるわけではありません。

日本の海水を使っていても、イオン交換膜の工程で、
マグネシウムなどのミネラル分はある程度取り除かれます。

つまり、「国内製造だから、昔ながらの天然塩でミネラルが豊富」とは限らないということです。


毎日使うものだから、価格は大事

精製塩や再生加工塩について、
ここまでである程度イメージがつかめたでしょうか。

では、
国産で、イオン交換膜を使わず、天日と平釜だけで作られた
いわゆる「ミネラル豊富な海塩」だけを選べばいいのか

というと、必ずしもそうとは言えません。

参考までに、価格帯を見てみましょう。

  • 精製塩:1kg 約200円
  • 再生加工塩(例:伯方の塩):1kg 約400円
  • 某国産天日海塩:1kg 約2,300円

このように、
天日・平釜製法の塩は、どうしても高価になります。

塩は毎日使う調味料です。
一方で、栄養面や調理上のメリットに、決定的な差があるわけではありません。

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だからこそ、
使い分けという考え方が現実的です。

普段の調理には、精製塩や再生加工塩を使用し

  • 良い肉を焼くとき
  • 新米でおにぎりを作るとき
  • 旬の山菜や素材そのものを味わうとき

そんな「少し贅沢をしたい場面」で、
好みの塩を使えば十分ではないでしょうか。

毎日使うものだからこそ、
無理なく、納得して選ぶ。
それが塩との一番長続きする付き合い方だと思います。


まとめ

「天然塩」「国産塩」「海の塩」という言葉から、
私たちはつい
昔ながらで体に良さそう
というイメージを抱きがちです。

しかし実際には、

多くの“天然塩風”の塩は再生加工塩である
国産塩でも、イオン交換膜を使った製法が主流である
製法や原料によって、栄養面に決定的な差が出るわけではない

というのが現実です。

再生加工塩や精製塩は、
妥協の産物ではなく、
日本の地理的・歴史的条件の中で生まれた、
合理的で持続可能な選択肢でもあります。


一方で、
天日・平釜製法の塩や、風味に個性のある塩が、
料理を楽しむための「嗜好品」であることも事実です。

大切なのは、

表示やイメージに振り回されず
原材料や製法を理解したうえで選び
日常用と特別な場面で使い分けること。

塩は毎日使う調味料だからこそ、
「正解」を探すのではなく、納得して選ぶ。

それが、塩と無理なく付き合っていくための、
いちばん現実的な考え方でしょう。


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この記事を書いた人

関口アキラのアバター 関口アキラ 管理人

調理師、栄養士、フードスタイリスト、カメラマン。「食」にまつわる幅広い分野で活動中。飲食店の立ち上げやメニュー開発、料理撮影、メニューデザインなど多様な現場に携わる。
食の楽しさを伝えるメディア「趣食研究所」を運営し、記事の執筆・撮影・編集を一貫して手がける。科学的根拠に基づいた発信を大切にしています。
http://se-akira.com/

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