さつまいもといえば、石焼き芋のようにしっかり火を通して食べるもの、というイメージがありますよね。

でも、サルが生の芋をかじっている姿を見たことはありませんか?
「サルが食べられるなら、人間も生で食べられるんじゃない?」と思いませんか?
今回は、生のさつまいもは食べられるのか、というテーマからでんぷんと消化、腸内細菌の関係を栄養士が解説します。
さつまいもは生でも食べられる

日本の料理本などでは基本的に「生食は避けた方がいい」と記載されています。
ただし毒性があるから、というわけではありません。消化されにくいから、という理由です。
海外では生食のレシピもあります。
特に韓国ではまるごとボリボリ食べている人も結構いるとか。
サツマイモとキャベツのコールスロー – Southern Living
https://www.southernliving.com/sweet-potato-and-cabbage-slaw-7376461
マーサ・スチュワートの生サツマイモ、セロリ、リンゴのサラダ – Food52
https://food52.com/recipes/41740-martha-stewart-s-sweet-potato-celery-and-apple-salad
生のさつまいものナムル – 고구마무침 황금레시피 :: 생고구마로 고구마무침 만들기
https://www.10000recipe.com/recipe/6970244?srsltid=AYCX9vLdVaDJ1R-4zRd-LuSyUOqnmPOyx5BkgOLiOAbrs8aWkPZReWbb
生のさつまいもは硬いので、細く切る・塩で揉んでしんなりさせる、というのがポイントのようです。
生のさつまいもの危険性
では、さつまいもが生で食べられるのに何故ここまで広まっていないのでしょうか。
大きな要因として「美味しくないから」が考えられますね。ふかした方が絶対美味しいですもの。
でもそれだけじゃない合理的な理由も存在します。
生のでんぷんは消化されにくく、腹痛の原因になることも

さつまいもの主成分は、炭水化物の一種であるでんぷんです。
生のでんぷんは、分子が規則的に並んだ構造を持ち、消化酵素が働きにくい状態にあります。
水分とともに加熱すると、糊化(こか)・α化し、この構造が崩れ、消化されやすくなります。
つまり加熱されていない生のでんぷんはかなり消化されづらいんです。
ただし、生のでんぷんもまったく消化できないわけではありません。
例えば、健康な成人6人に未熟なバナナの粉を食べてもらった研究では、でんぷんとその分解物を合わせた成分の約84%が、小腸で吸収されずに末端まで届きました。生のでんぷんもすべてが消化されないわけではありませんが、多くが小腸での消化・吸収を免れる例です。
参考:Faisant N, et al. Digestion of raw banana starch in the small intestine of healthy humans: structural features of resistant starch. British Journal of Nutrition. 1995;73(1):111–123.
また、消化されにくさが、そのまま不調につながるとも限りません。
健康な成人70人の試験では、ジャガイモ由来の難消化性でんぷんを1日2.1gまたは4.2g、4週間摂っても、腹痛・張り・ガスの平均スコアは有意に悪化しませんでした。一方、過敏性腸症候群の人を含む小規模試験では、膨満感の増加が報告されています。
参考:Consumption of resistant potato starch produces changes in gut microbiota that correlate with improvements in abnormal bowel symptoms: a secondary analysis of a clinical trial. 2024.
Evaluating tolerability of resistant starch 2, alone and in combination with minimally fermented fibre for patients with irritable bowel syndrome: a pilot randomised controlled cross-over trial. 2022.
消化されにくい生のでんぷんを食べると必ず不調になるわけではなく、量や体質によって反応が違う、という考え方が研究結果に合っています。
トリプシンインヒビターと壊死性腸炎の関係

タンパク質を分解する消化酵素「トリプシン」というものがあります。
さつまいもにはトリプシンを阻害する、トリプシン阻害物質(トリプシンインヒビター)が含まれています。
その活性は品種や加工条件によって異なり、加熱によって低下します。
この物質は、特定の感染症との関係でも知られています。
ウエルシュ菌〈Clostridium perfringens〉C型が作るβ毒素は、通常トリプシンによって分解されやすい性質があります。しかし、トリプシンの働きが弱いと毒素が残り、腸の組織を傷つけることがあります。
パプアニューギニアで報告されてきた「ピグベル(Pigbel)」は、この毒素が関与する重い壊死性腸炎です。
発症には、菌への曝露に加えて、低タンパク栄養による消化酵素の不足や、食品中のトリプシン阻害物質など、複数の条件が関わると考えられています。
生のさつまいもを食べるだけで壊死性腸炎になる、という意味ではありません。先進国ではまれにしか報告されていません。かなり特殊事例です。
ただし、偏った食べ方をした場合はその限りではない、ということだけ覚えておいてください。
かなりの量を食べなければ心配する必要はない
消化されにくいでんぷんによるお腹の張りや腹痛は、食べる量や体質によって異なります。
詳しく調べた研究がないのでなんとも言えませんが、かなりの量を食べない限り心配する必要はないと思います。
加熱には、でんぷんを消化されやすくするとともに、トリプシン阻害物質の活性を下げる働きがあります。
こういったことを考えると、消化しやすく調理する重要性にも改めて気付かされますね。
消化されなかったでんぷんは、どこへ行く?
大腸に届く「レジスタントスターチ」
小腸で消化・吸収されず、大腸に届くでんぷんをレジスタントスターチ(RS/難消化性でんぷん)と呼びます。
生のでんぷん=レジスタントスターチというわけではありません。
生のでんぷんにも多少は消化される部分があり、そのうち消化されなかったものがRSに当たります。
RSが大腸に届くと、それを利用できる腸内細菌が分解・発酵します。
その過程で作られるのが、酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸です。酪酸は、大腸の上皮細胞のエネルギー源などとして働きます。
自分の消化酵素では利用しきれなかったものが、腸内細菌の栄養になる。
消化されにくいということにもメリットはあるのです。
未加熱のでんぷんで、腸内細菌の変化を調べた研究もある
2016年に発表された研究では、健康な若者20人が、未加熱のジャガイモでんぷんを摂取しました。
量を段階的に増やした後、1日48g、RSとして約24gを7日間摂っています。その結果、集団全体では便中の酪酸濃度が上昇し、腸内細菌の構成にも変化が見られました。ただし、反応には個人差がありました。
参考:Venkataraman et al.(2016)Variable responses of human microbiomes to dietary supplementation with resistant starch
この研究は、未加熱のでんぷん由来のRSにも、腸内細菌の働きを変える作用があることを示しています。
ただ、調べたのは便中の成分や細菌の構成で、便秘や腹痛の改善そのものではありません。
また、使用したのはジャガイモから取り出したでんぷんであり、生のさつまいもを食べる試験ではない点にも注意が必要です。
では、生のさつまいもの方が健康にいい?
消化されにくい生のでんぷんにも健康上のメリットがあることがわかっていただけたと思います。
では、生のさつまいもの方が健康にいいのでしょうか?
食後血糖の上がり方を調べた人の試験はある
生のさつまいもについては、人に食べてもらい、食後血糖の上がり方を調べた研究があります。
2012年の研究では、成人12人が参加した試験で、特定品種のさつまいもの調理方法を比較しました。生の果肉は、蒸す・焼く・電子レンジで加熱した果肉より、血糖上昇の指標であるGIが低いという結果でした。
参考:Allen JC, et al. Glycemic Index of Sweet Potato as Affected by Cooking Methods. The Open Nutrition Journal. 2012;6:1–11.
生は消化されにくい、と知っているとなんとなく予想できる結果ですね。
ただし、これは食後の血糖を測った短期試験です。
「生で食べれば痩せる」「糖尿病を予防できる」といった長期的な効果を示した研究ではありません。
腸へのメリットは考えられるが、生食の優位性は未確認
ここまでの研究から、生のさつまいもに含まれるRSが腸内細菌のエサになり、腸の健康に役立つ可能性は考えられます。
一方で、「生のさつまいもを食べると便通がよくなる」「加熱したものより腸内環境が改善する」と直接示した人の研究は、今回調べた範囲では確認できませんでした。
加熱したさつまいもにも、人での研究があります。日本の女子大学生22人を対象とした試験では、加熱した「べにてんし」の摂取により排便量が増え、1日300gの条件では排便頻度も増えました。腹部膨満感は変わらなかったと報告されています。
参考:Sweet Potato Improves Defecation and Gut Microbiota of Female University Students. 日本栄養・食糧学会誌. 2016;69:229–235.
生だけにメリットがあるわけではなく、加熱したさつまいもにも腸への働きが期待できるのです。
加熱にも、生にも、それぞれ特徴がある

加熱がいい、生がいい、というわけでなくそれぞれ特徴があるということがわかっていただけたと思います。
日々の料理では、まず食感やおいしさ、食べた後の体調で選んでよいと思います。軟らかく食べたい日は蒸す。甘みを楽しみたい日は焼く。生食を試すなら、歯ごたえを楽しむ食べ方の一つとして、少量から試してみる、といった感じに。
消化されやすさは、食品の特徴の一つです。それだけで「体によい・悪い」が決まるわけではありません。
加熱によって自分が利用しやすくなる栄養もあれば、消化されずに腸内細菌へ届くことで役割を持つものもある。さつまいもの調理を、そんな視点で眺めてみるのも面白いですね。


