健康メディア界隈で昔から言われている「マーガリンはプラスチックだ」という話。
キャッチコピーとしては強烈なので、頭に残っている人も多いでしょう。そのせいで、なんとなく避けている人もいるのではないでしょうか。
この記事では「食べるプラスチック」という言葉を整理しながら、トランス脂肪酸の問題、そして現在のマーガリンについて解説していきます。
「マーガリンはプラスチックと同じ」は本当?
当然ながらマーガリンは、プラスチックと同じ物質ではありません。
それに物質的に似た構造でもありません。

どの辺が似てるんでしょうね?
では、なぜこんなことが言われるのでしょうか。
マーガリンは何からできている?

プラスチックは石油成分から作られますが、マーガリンは基本的に植物油から作られています。
液体の油と固体の脂肪を組み合わせたり、油脂を加工したりして、パンに塗りやすい硬さや口どけに調整します。そこに水、食塩、乳成分などを加えて乳化し、冷却しながら練り合わせて作ります。
パンやお菓子の原材料で見かける「ショートニング」も、食用油脂を使った食品です。こちらは水分が非常に少なく、油脂を主体としています。

プラスチックと呼ばれた原因は誤訳?
ここで少しややこしいのが、英語の「plastic」という言葉です。
日本語で「プラスチック」と言われると、ペットボトルや食品容器のような素材を思い浮かべますね。

英語の「plastic」にもその意味はありますが、「可塑性(力を加えると変形し、力を取り去っても変形が残る性質)」という意味の言葉でもあります。
食用油をplasticizeさせたもの
↓
食用油をプラスチック化させたもの
という流れで「マーガリン=プラスチック」の混同につながったという説明もあります。
ただし、言葉の意味の違いだけで「誤訳が噂の発端だった」とまでは断定できません。
「腐らないからプラスチック」という話は?
もう一つ、よく持ち出されるのが「長期間放置しても虫が来ず、カビも生えなかった」という逸話です。
フレッド・ローという人物がマーガリンを約2年間置いて観察した、という話が紹介されています。
その方は「2年間放置したのに虫が寄り付かず、カビさえ生えないマーガリンは食べ物ではない」という主張をしています。これを引用してマーガリンを批判する人がかなり多いようです。
参考:フレッド・ローのマーガリン大実験 https://wakegiorino.blogspot.com/2012/03/blog-post.html
この実験?に反論するならば、油脂というのは劣化はしますが基本的には腐りません。
同じく油脂分の多いチョコレートなんかも100年カビが生えず形を保ったまま見つかったケースがあります。

https://www.cnn.co.jp/style/luxury/35168757.html
カビや細菌の増殖も、食品の成分、温度、水分活性などに左右されます。この逸話だけでは、カビが生えなかった理由を特定できませんし、ましてや「だからプラスチックだ」という結論にはつながりません。
参考:米国食品医薬品局(FDA)「Water Activity in Foods」
マーガリンはプラスチック、の真実
- プラスチックとマーガリンは材料も構造も全く違う
- 食用油をプラスチック化したもの、の誤訳の可能性
- 腐らないから食品ではない!の誤解
これらの要因と、何よりそのキャッチフレーズの強さから「マーガリンはプラスチックだ」という言説が広がっていったと考えられます。知識のない人へ発信するには、不安を煽る非常に良いフレーズですからね。
ちなみに海外では「Margarine is one molecule away from plastic(マーガリンはプラスチックから分子1個分しか離れていない)」というのが定型フレーズのようです。2000年代初頭にアメリカのメール等で出回っていたそうです。
「絶対食べてはいけない〇〇」「発ガン性のある〇〇」など、過剰なことを言って不安を煽る記事に振り回されないようにご注意を。最近だと「身体が酸化・老化する〇〇」あたりのフレーズよくみますね。
「マーガリンはプラスチックと同じ」な訳はない。
ただ、不安を煽るキャッチコピーとしては非常に優秀なので注意
なぜマーガリンは悪役にされてきたの?
マーガリンをめぐる話には、噂だけでなく、バターとの競争の歴史や、トランス脂肪酸という実際の健康上の問題も関係しています。順番に見てみましょう。
バター業界との競争の歴史
マーガリンが登場したのは1869年。当初は牛脂と牛乳を混ぜたような、バターの代替食品でした。植物油や水素添加油脂の利用は、その後に広がっていきます。
安価なマーガリンが普及すると、競争相手であるバター(酪農)業界との対立も生まれました。
バターが売れないと商売上がったりなので、政治家のコネなど使い、あの手この手で足を引っ張ります。
米国では、バター業界を保護する背景のもと、1886年にマーガリンへの課税が始まっています。着色を制限する規制などもありました。連邦政府による追加の課税が撤廃されたのは1950年でした。
マーガリンはバター業界から嫌われていた
参考:米下院「Tax Reform with a Side of Margarine」
参考:オクラホマ州立大学「Margarines and Spreads」
部分水素添加で生じるトランス脂肪酸
とはいえマーガリンが全くもって健康に良いものか、と言われればそうでない時期もありました。
マーガリンの加工工程の「水素添加」、なかでも一部だけに水素を加える「部分水素添加」では、トランス脂肪酸を多く含む油脂ができることがあります。
このトランス脂肪酸は過剰に摂取すると悪玉コレステロール(LDL)が増加し、善玉コレステロール(HDL)が減少し、心臓病などの冠動脈疾患リスクが高まります。
つまりバターより明確に健康に悪いことがわかったのです。
このマーガリンのトランス脂肪酸の健康問題については、現在に至るまで問題視されています。
現在のマーガリンはどうなっているの?
じゃあやっぱりマーガリンって身体に悪いんじゃん。
と、思ったそこのあなた。現在の商品は企業努力により大幅に改善されていることをご存知でしょうか。
今のマーガリンは、原料と製法が変わっている
トランス脂肪酸の問題を受けて、食品メーカーは原料や加工方法を見直してきました。
要はトランス脂肪酸を生み出す「部分水素添加」を行わないようにすれば良いわけです。
原料の組み合わせを変えたり、油脂を融ける温度の違いなどで分ける「分別」、油脂中の脂肪酸の組み合わせを変える「エステル交換」といった技術を使ったりすることで、「部分水素添加」を使わず、トランス脂肪酸を減らした製品が開発されています。

例えば雪印メグミルクは、家庭用マーガリン類の全商品で、部分水素添加油脂を使用していないと説明しています。
なお、「部分水素添加油脂を使わない」と「水素添加を一切しない」は同じではありません。
完全水素添加は部分水素添加と異なり、トランス脂肪酸を含む不飽和結合をなくす処理です。
少し専門的ですが、「水素添加」という言葉だけで、トランス脂肪酸が多いと判断することはできないのです。
参考:これを読めばマーガリンの作り方が分かる!6つの工程を完全ガイド
メーカー公表値を、実際に使う量で見る
具体例として、雪印メグミルクが公開しているマーガリン類のデータを見てみましょう。
ここでは、パンに塗る量をイメージしやすいように、商品10g当たりにそろえています。
| 商品名 | トランス脂肪酸/商品10g | 飽和脂肪酸/商品10g |
|---|---|---|
| ネオソフト | 0.05g | 2.3g |
| ネオソフト ハーフ | 0.04g | 0.5g |
| バター仕立てのマーガリン | 0.1g | 2.9g |
※2026年9月28日、公式ページで掲載値を確認。「ネオソフト」「ネオソフト ハーフ」は、マーガリン類のうち「ファットスプレッド」に分類されます。
WHOは、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えることを推奨しています。1日2,000kcalをとる人なら、約2.2g未満に相当します。ネオソフトだけで摂るなら440g必要な計算ですね。ただし、これは食事全体の量です。「そこまで積極的に食べてよい」という目標量ではありません。
なんならバターよりトランス脂肪酸は低い
表を見て、「なんだ、トランス脂肪酸は含まれているじゃん」と思った方もいるかもしれません。
実は、トランス脂肪酸が生じる経路は、部分水素添加だけではありません。
植物油の精製で行う高温の脱臭処理などでも生じることがあります。また、牛などの反すう動物の胃の中でも微生物によって作られるため、バターのような乳脂肪にも含まれています。
「部分水素添加油脂を使っていない=トランス脂肪酸が完全にゼロ」ではありません。
バターにも、天然由来のトランス脂肪酸は含まれます。
| 商品名 | トランス脂肪酸/商品10g | 飽和脂肪酸/商品10g |
|---|---|---|
| ネオソフト | 0.05g | 2.3g |
| 森永北海道バター | 0.32g | 5.1g |
この表でわかる通り、もはや現在のマーガリンのトランス脂肪酸量はバターより低いのです。
「マーガリンを食べるとトランス脂肪酸が!」と言っている人は20年前から知識をアップデートできていません。
天然か加工由来かというイメージだけでは、食品全体の評価はできないのです。
さいごに
「食べるプラスチック」
一度聞くと忘れにくい言葉ですが、マーガリンの成分や健康への影響を正しく説明する言葉ではありませんね。
現在のマーガリンは企業努力により、トランス脂肪酸はバター以下まで抑えられていることを知っておいてください。
ただし、これでマーガリンがバターより健康的だ、というわけではありません。
何事もほどほどに食べるのが大切です。
不安を煽る食品の情報に振り回されないために
- 食べ続けるとガンになる〇〇
- 〇〇を食べると身体が酸化・老化する
- 海外では禁止されているのに、なぜ日本だけが食べる〇〇
- 医者が絶対に口にしない、ヤバい〇〇
こんな危険な食品の注意喚起をSNSなどでみたことはないでしょうか。
どれも不安を煽り、視聴させようと必死に誇大広告しているだけだということを覚えておいてください。
このような言葉を見かけたら、まずはその根拠を調べてみる。そんな癖をつけておくと余計な情報に振り回されなくて済むようになるかと思います。





